8/24/2022

第六回芝不器男俳句新人賞 特別賞受賞作品100句

1. 夜驚症 ほら立体の犬駆け抜ける

2. いつもうすみどりいろの葉から目覚めてる

3. チューリップみんなが買っているのですよ

4. 月見月 羊腸のコンテナ積み上がる

5. 暴言と罵詈の間のティッシュかな

6. 思いました私の全てが小指だと

7. ベンツから出る右腕、を見る立場、サイレン

8. 大破して閉じ込められたくなりふたり 

9. 狂ったら心があることになっちゃうよね 

10. アルペジオもない恥ずかしい手の甲は雪受けとめ

11. 心こだます肉体までの渓谷を

12. ラッパ頭の犬電球へと移り変わり

13. 九官鳥 皺は夜に薄まっていく

14. 私って頑張ってるわヒラメ裏返す

15. 栄螺らしく包丁を見ていればいいのです

16. 人なだれ込みわたし薄まりぬ

17. マカロンよ持論などある人はいない

18. 眼球を押せば明るいお部屋かな 

19. 化石にしてあげるそしてやさしくしてあげる

20. 落雷あなたの脚は湖になり

21. 鉄は海に集う羊ら刈りあがる間に

22. 工事音に扮して牝牛と雄牛は貴く

23. 凍りゆく豚ハツの芯はへつらいつつ

24. 春ですが前ばかり見てると轢かれますよ

25. 三辺が120cmの恨み引き取られる

26. ラズベリーパイ寄り目で笑わせておくれ 

27. サンプルAに思惑立ち込める客間

28. またあした祖母の歯茎で呪うから

29. 川崎で手首がシマウマになったのかい

30. 鳥は鳥の体積の内を飛び続け

31. こんにちは、或いは、ふざけるな、と吠え

32. 背表紙の船発ち私を彼女にしなさいよ

33. 遊具去り人が一本ありました

34. 寂しいか瞼の裏に犬でも描け

35. 水を飲もう衛星は母振り落とす

36. 托卵やどっちがミルクこぼしたのかな

37. 分裂をしたい鏡とか買って

38. かけ流し 女は帰り道を知っている

39. 父の話は口が裂けたら言いますね

40. 箱詰めの犬の目黒し柿を干す

41. 糊はがれ本が開き出すあなた

42. 信号無視みみずは土で腫れている

43. タイヤ痕 無思想の昼ごはんかな

44. 白状することなんてない洗濯機回り出す

45. 黄身を打つ鉄杭ほがらかな土曜

46. ケーキお食べ弱った男は懐紙とする

47. 葛饅頭ガムテープは瞼を曳き

48. 魚って舌べらありましたっけ冬銀河

49. 横顔は留まりその他蒸発す

50. 循環論法の上で月蝕とかをしてる 

51. カーテンめくり母のこと剝がれていく 

52. 表札割れハイオクがいい香りだった 

53. これが最後なのかもアイロン冷え

54. 救急車が急いでいるんだね衣擦れ

55. コンクリで今日を希釈する友達 

56. 耳少しづつ歯車となる彼誰(かわたれ) 

57. 約20kgの人肉経てテレビ見てる 

58. 名付けるとはおこがましいこと鳩降り 

59. 木漏れ日を浴びれて廃車は幸せだ 

60. 時間は乳を吸いガジュマルは何を垂らす 

61. あなたの背のほこりを払う私は今日も生きていい

62. 米粒に手足が生える女正月

63. 稚児振り向きあらゆる引用をする唇 

64. 粘土から男こしらえる冬仕度

65. 欲しがって欲しいと思う湯踊りだす

66. 地滑りを見に来る牛だ列車は鏡持たず

67. 銀竜草はやく枕を押しつけて

68. 遠くばかり見ている男だ羽抜鶏

69. 多年生の木馬回り祝日を強いるか

70. 鉄馬だいい齢をして脱ぎ 

71. 鯛浮かぶいますぐ屋上まで来いよ 

72. 二重窓の間でキリンゆらいでいる

73. 骨盤が弾け降りかかる腐葉土へと 

74. 保険売りよ初耳の金型がならび 

75. 隠れましょう街中に眉うねる時は

76. 地下鉄はあなた吸い込んでいくどうして

77. 道は凪ぐ小雨依り憑く警官立ち 

78. 凍土より自分語りの符湧きあがる

79. 表皮母斑のかたちの雨もようだくちすい

80. 螺旋骨折そういうところが好きかも

81. 雲間晴れて少しつながってくる回路 

82. 太陽は肝臓をやられてそうフォックスファーが好き 

83. 皮剝ぎや遠くに芋の唄が聞こえ

84. レーズンパン人柱になるなんて遺憾 

85. 生まれ来る子のうちの狒々よ欠伸をし 

86. 大間違いの雲浮き婦人警官記念日

87. 冷蔵庫の裏に故人の記憶二匹 

88. 鹿喰いを赦され雌豹分解され 

89. 寒犬やあくどい蛇はやつだと言え

90. 光を食み霜降りつもる牛の肩に 

91. 雪兎研ぎ切る手ばかりが残り 

92. 啓蟄や座ったお尻に穴がある 

93. 昼間って暗いもの耳と耳すれ違う

94. 地価上がる意気地のない抱っこでも続けて 

95. 湯が張られくちびるが心から剥がれ

96. 海老は海老を踏み電話掛かって来た気がしてる 

97. 話題の無い偶蹄類は海を眺め 

98. ダンスでもしていたらいい蟻ら満ちる 

99. 榊振る鹿悉く胴体無く

100. 鼻歌歌え列車は骨を欲しがるものと


(2022年 第六回芝不器男新人賞 特別賞受賞分100句  早舩煙雨)

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